香りを楽しむ嗜好品というイメージも強い燻製ですが、昔は主に保存食として作られていたことはご存知でしょうか。
燻製は、いつの時代に、どのようにして生まれたものなのでしょう。
世界全体で見る燻製の歴史をはじめ、日本の燻製の歴史、日本の伝統的な燻製品についてまとめました。
燻製の歴史:始まりは1万年以上前の石器時代
燻製は、今から1万3000年ほど前の石器時代、日本でいう縄文時代の草創期から作られていたと考えられています。
まずは、燻製が作られるようになった背景からご紹介します。
石器時代の生活とは?
石器時代といえば、石で作った武器や道具を使って暮らしていた時代。
温暖化によって中型〜小型の動物や魚、木の実や山菜などの食べ物が増えたことや、狩猟中心の移動生活から徐々に定住生活ができるようになったことから、人口が増えた時代でもありました。
人々が飢餓を乗り越えるためには、食料の保存が欠かせません。そこで生まれたのが、燻製でした。
燻製の起源
燻製は、焚き火の上に吊るしていた肉や魚が、熱による乾燥と煙の殺菌・防腐成分によって、これまで以上に長い間食べられるようになったことから始まりました。
つまり、燻製は偶然できあがったものだったのです。
もちろん、当時の燻製は煙臭さや苦味ばかりが目立つような、お世辞にも美味しいといえる食べ物ではなかったはずですが、長期保存が叶っただけでも人類にとっては大きな一歩だったことでしょう。
燻製の歴史:紀元前後の塩漬けにより原型が完成
今から2000年ほど前の紀元前後、ヨーロッパで塩漬け(塩蔵法)が使われるようになったことによって、燻製は現代のものに大きく近づきます。
古代ローマ帝国時代の様子
当時は、古代ローマ帝国の時代。
「塩の道」と呼ばれるローマ街道が作られたことからもわかるように、塩は古代ローマにとって重要な役割を果たしていました。
くわえて、紀元前後のローマ帝国ではやせた土地も多かったことから、繁殖力の高い豚の飼育が盛んで、ローマの街に住むガリア人の主な商売はハムや塩漬け肉だったといわれるほどだったようです。
ゲルマン民族により燻製の原型が作られる
そんな北ヨーロッパで馴染み深かった塩漬け肉と燻煙を組み合わせたのが、ドイツの狩猟民族・ゲルマン人です。
かつて、地中海全域を支配するほどの大帝国だったローマへの侵入を試みたゲルマン民族にとって、保存のきく塩漬け肉の燻製は、長距離移動にうってつけの食料だったのでしょう。
これが、今の燻製の原型となっています。
燻製の歴史:2000年前にはスパイスも登場
塩漬けとほぼ同時期の紀元1世紀頃には、海・陸のシルクロードを経由して、ヨーロッパにもスパイスが流入しはじめました。
その当時にスパイスを使う主な目的は、肉・魚などの臭み消しや、食材の保存性を高めるため。
食材の美味しさを引き立てるためにスパイスが使われていたわけではなかったため、スパイス流入後に作られた燻製も、あくまで保存性の高い食品という認識だったのだと思います。
燻製の歴史:燻製が発展したのは12世紀初頭
燻製が産業的に製造されるようになったのは、燻製が作られるようになってから1000年以上経った後の12世紀初頭のドイツに始まり、その後ヨーロッパ各地に広がっていったとされています。
ハム・ソーセージの流通が始まる
当時の流通のメインは、豚肉を使ったハムやソーセージだったようです。
燻製がハムやソーセージから普及した理由は、豚の生育環境にあります。
雑食で繁殖力が高い豚は古くからヨーロッパの畜産業を支えていましたが、雑草などの餌が育たなくなるヨーロッパの長く厳しい冬を超えることができなかったため、冬が始まる前に解体して塩漬けにするのが定法だったそうです。
そこにスパイスを加え、燻してできた燻製品は、冬の間にも楽しめる美味しい保存食として徐々にヨーロッパ人の生活に溶け込んでいきました。
(ちなみに、ハムやソーセージが燻製であることを知らなかった方はご安心ください。恥ずかしながら、私も燻製屋に嫁ぐまで知らずに美味しく食べていました……笑)
スパイスで燻製のクオリティが向上
燻製の発展に寄与したのは、聖地エルサレムをとり返すためにイスラム諸国に出た際に十字軍がヨーロッパに持ち帰った、さまざまな香辛料です。
持ち帰られた東方の香辛料によって、ハム・ソーセージの味や保存技術は飛躍的に向上。
ヨーロッパでのハム・ソーセージ作りは、ますます盛んになりました。
その後、漁業の発展や、さらに多くの香辛料を入手した15世紀頃の大航海時代を経て、燻製品は広く流通されるようになったそうです。
12世紀頃にはすでに、それなりに美味しい燻製品が食べられたのかもしれませんね。
燻製の歴史:日本で燻製ができたのは飛鳥時代
燻製の原型が作られたのは紀元前後とご紹介しましたが、日本では、飛鳥時代(6〜8世紀)までには燻製が作られていたとされています。
これは、日本最古の歴史書である『古事記』(712年)に、「堅魚(鰹節の原型)」の文言や、鰹を保存食として加工したと思われる文章があったためです。
ただ個人的には、干物や乾燥肉に煙にあてる程度の燻製であれば、もっと前から作られていたような気もしています。
燻製の歴史:日本の伝統的な燻製
燻製の歴史について調べた方が気になりそうな日本ならではの燻製についてもまとめておきましたので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
鰹節
鰹節は、日本由来の燻製品です。
前項を見て「鰹節って燻製なの?」と驚かれた方もいるかもしれませんが、実は鰹節の製造工程には「焙乾(ばいかん)」や「燻乾(くんかん)」といった燻す工程があるのです。
焙乾や燻乾をする主な目的は水分を飛ばすことで、大きなサイズの本節では、燻す・休ませるという工程を10〜15回繰り返すこともあるそう。
香りづけを主目的とする一般的な燻製とは燻す意味合いは異なりますが、鰹節も立派な燻製品といえます。
いぶりがっこ(いぶり漬け)
秋田の特産品である漬物・いぶりがっこ(いぶり漬け)は、世界でも珍しい野菜の燻製品です。
そんないぶりがっこは、大根を先に燻してから漬け込むという、従来の燻製とは逆のイメージの製造工程で作られるのですが、この製造工程を踏むのは、実はいぶりがっこがたまたま作られたものであるからなのです。
いぶりがっこの起源は燻製そのものの起源と似ていて、囲炉裏の上に干していた大根が自然と燻され、それを漬け込んでみたら美味しくなったといったもの。
いぶりがっこの作り方は下記記事でもご紹介していますので、気になった方はぜひチェックしてみてくださいね。
燻製は長い歴史を経て美味しく進化!
燻製は、1万年以上前から作られている歴史のある食品です。
長い時間をかけて、徐々に美味しく進化してきた燻製。今後もますます美味しく進化することに、期待したいものです。
ちなみに、燻製屋である当店でもいぶりがっこを作っています。
燻製屋ならではの香り高いいぶりがっこに、たくさんのお客様が魅了され、リピートくださっておりますので、よろしけれぜひ一度ご賞味くださいませ!
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